窃盗事件に強い弁護士の特徴は?特に相談した方がいいケースも

ある日突然、警察から「ご家族が窃盗の容疑で逮捕されました」と連絡が入ったとき、多くの方が動揺し、どう対応すべきか分からず戸惑うことでしょう。特に、逮捕されたのが未成年の子どもであれば、今後の学校生活や将来への影響を心配するのは当然のことです。家族にとって「窃盗で逮捕された」という事実は大きな衝撃ですが、冷静な判断と的確な対応がその後の結果を大きく左右します。このコラムでは、家族や子どもが窃盗で逮捕された場合に知っておくべき知識や、今すぐに取るべき行動について、わかりやすく解説します。

窃盗事件を含む財産犯罪についてはこちらをご覧ください財産犯罪|取扱業務|刑事弁護のプロフェッショナルJIN国際刑事法律事務所

目次

1.窃盗とは

窃盗罪とは、他人のものを無断で盗むことで成立する犯罪です。もっとも身近な犯罪のひとつであり、万引きや置き引き、自転車を勝手に持ち去るといった行為もすべて窃盗罪に該当します。

日本の刑法では、窃盗罪について以下のように定められています。

【刑法第235条】(窃盗)

他人の財物を窃取した者は、10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処する。」

この条文にある「窃取」とは、他人のものをこっそりと自分の支配下に移すこと、つまり“盗む”ことを意味します。たとえば、スーパーで商品をこっそり持ち帰る「万引き」や、人のバッグから財布を抜き取る「スリ」などが典型例です。窃盗罪が成立するには、次の3つの要件が満たされる必要があります。

1.他人の占有物であること

 盗んだ物が自分のものではなく、他人の財物であることが必要です。落とし物や忘れ物を勝手に持ち帰る場合も、窃盗と見なされることがあります。

2.無断で奪うこと

 相手の同意がなく、こっそりと物を自分のものにする行為が該当します。強引に奪う場合は「強盗罪」となり、より重い処罰が科されます。

3.自分のものにする意思(不法領得の意思)があること

 一時的に借りるつもりだった、返すつもりだったという主張では、場合によっては窃盗罪が成立しないこともありますが、「本当に返すつもりだったのか」は、具体的な状況や証拠によって判断されます。

また、窃盗行為に悪質性がある場合や、侵入して盗みを行った場合(住居侵入+窃盗など)には「住居侵入罪」や「窃盗の加重罪」として、より重い刑罰が科されることもあります。

2.  窃盗罪で逮捕されるケースの具体例

以下は、窃盗罪が成立する事例です。いずれも「他人の占有する財物を、不法に自己の支配下に置く意思(不法領得の意思)」があるため、窃盗罪が成立します。

1.万引き:会計を通さず商品を持ち出す

【例】スーパーでお菓子をバッグに入れ、そのまま店を出た。

→ 商品は店の占有物です。会計をせずに持ち帰れば、他人の物を不法に取得したことになり、窃盗罪が成立します。防犯カメラの映像などから発覚することも多く、再犯であれば実刑になることもあります。

2.放置自転車を持ち帰る:「借りただけ」でも窃盗になる場合も

【例】駅前に止めてある鍵のかかっていない自転車に乗って帰った。

→ 所有者の許可がなければ、「ちょっと借りただけ」であっても不法領得の意思があるとされ、窃盗罪が成立します。戻すつもりだったという主張は、状況次第では通用しません。

3.置き引き:目を離した隙に荷物を持ち去る

【例】カフェで隣の席の人がトイレに行っている間に、テーブル上のスマホを盗んだ。

→ 持ち主が一時的にその場を離れていても、占有は継続しているとされます。こっそり持ち去れば、明確な窃盗行為です。

4.スリ:人のポケットやバッグから財布を抜く

【例】満員電車で隣の人のカバンから財布を抜いた。

→ 他人の所有物を無断で奪いこっそりと自分のものにする行為なので、窃盗罪の典型例です。

5.落とし物を持ち帰る:「拾った」だけでは済まされない

【例】道に落ちていた財布を交番に届けず、自分で使ってしまった。

→ 拾った物は本来、警察などに届ける義務があります。届けずに持ち帰れば、遺失物等横領罪、場合によっては窃盗罪が適用されることもあります。中身の使用状況などで判断されます。

6.職場のレジ・金庫からの現金持ち出し

【例】バイト中にレジから1万円を抜き取った。

→ 金銭の管理を任されていない立場の従業員が勝手に現金を取ると、窃盗罪が成立します。経理担当者などの場合は横領罪となることがあります。いずれにしても、重大な背信行為です。

7.空き巣:住居に侵入して金品を盗む

【例】留守中の家に侵入し、財布や貴金属を盗んだ。

→ 他人の家に無断で入った時点で住居侵入罪、さらに物を盗めば窃盗罪が加わり、住居侵入窃盗として重く処罰されます。

8.ロッカーや引き出しからの盗み

【例】学校のロッカーから他人の財布を抜き取った。

→ ロッカーや引き出しの中の物は、その人の支配下にある財物です。無断で持ち出す行為は、窃盗罪に該当します。学校内での犯行は、処分・退学などの問題にも発展する可能性があります。

9.ATMに忘れられた現金を取る

【例】前の人が引き出したまま忘れていた現金を、そのまま自分の財布に入れた。

→ ATMに残っているお金は、まだ前の利用者の占有下にあります。持ち去れば窃盗罪が成立し、防犯カメラの映像で発覚するケースも多いです。

3.窃盗罪と類似の犯罪

財物を不正に取得する行為として、窃盗のほかに強盗や横領も挙げられます。ここでは、窃盗と性質が似ているこれらの犯罪との違いについて説明します。

3-1. 窃盗と強盗の違い

いわゆる万引き行為は窃盗罪(刑法第235条)に該当しますが、強盗罪(刑法第236条)も他人の財産を奪う点では共通しています。両者の決定的な違いは、「暴行又は脅迫」が用いられているか否かという点です。この点が、法的評価や科される刑罰の重さに大きく影響します。窃盗罪は10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金ですが、強盗罪は原則として5年以上の懲役が科される重い犯罪です。さらに、相手に傷害を負わせた場合などは、強盗致傷罪として一層厳しい処罰を受けることになります。たとえば、商品を盗もうとしたところを店員に発見され、逃走しようとして暴行を加えた場合は、「事後強盗」として取り扱われ、万引きよりも重い罪に問われるおそれがあります。

3-2. 窃盗と横領の違い

次に横領罪についてですが、こちらも他人の財物を不正に取得するという意味では窃盗と似ています。しかし、刑法第252条に規定されているように、横領とは「自己の占有下にある他人の財物」を不法に処分する行為です。つまり、窃盗が「他人の支配下にある物を奪う」行為であるのに対し、横領は「自分が預かっていた他人の物を勝手に使う・処分する」といった点に違いがあります。さらに、その横領行為が業務の一環として行われた場合は、業務上横領罪(刑法第253条)となり、10年以下の拘禁刑とより重くなります。「占有」とは、単に物を所持している状態だけでなく、社会的または法律的に管理する立場にあることも含まれます。具体例としては、店舗の商品を盗んだり、他人の家に侵入して金銭を奪った場合は窃盗、会社の経理担当者が会社資金を自分のために使ったり、友人から預かった物を勝手に売却するような場合は横領に該当します。

4.窃盗事件に強い弁護士の特徴

窃盗事件に強い弁護士とは、単に刑事事件の経験があるというだけでなく、窃盗に特有の法的構造・立証構造・示談交渉・少年事件対応などを含めた専門知識と実務経験を有している弁護士を指します。具体的に以下のポイントを参考に弁護士を選任すると良いでしょう。

  1. 刑事事件を専門に取り扱っているか:刑事事件には民事事件とは全く異なる独特のルール・手続があります。起訴前の弁護活動や勾留回避、示談交渉、保釈請求、そして刑の軽減のための情状弁護など、刑事独自のスキルが求められます。したがって、刑事事件を「主力分野」として掲げている事務所の弁護士が望ましいです。
  2. 示談交渉の実績が豊富か:窃盗事件では、被害者との示談が処分に大きな影響を与えます。示談が成立すれば、不起訴や執行猶予の可能性が高まります。ただし、被害者感情への配慮や迅速な対応が求められるため、示談交渉に慣れた弁護士であることが必要です。
  3. 勾留阻止や早期釈放の経験があるか:逮捕・勾留されると、社会的信用や職場・学校生活への影響が大きくなります。勾留回避や釈放に向けた迅速な弁護活動ができる弁護士は、家族にとっても大きな支えになります。法律事務所のホームページに掲載されている、解決事例なども参考にすると良いでしょう。
  4.  少年事件にも対応可能か:窃盗事件では、未成年者が関与していることも少なくありません。少年事件は成人とは全く異なる手続となるため、家庭裁判所送致後の対応まで見据えたサポートができる弁護士であればなお安心です。
  5.  実際に会ってみて、話を聞いてくれる弁護士か:弁護士が「話を聞いてくれるかどうか」は、単なる親切さではなく、弁護活動の質そのものに直結する要素です。表面的に話を聞いているだけの弁護士と、話の中から弁護活動に使える材料を拾い出してくれる弁護士はまったく違います。依頼者の話の中には、証拠となり得る事実や解決の糸口が必ず含まれています。話を聞くだけでなく、「戦略的に聞いてくれる」弁護士こそが理想です。また、一方的に方針を推し進めるのではなく、本人の意思を都度確認してくれるかも重要です。

初回相談の場面で、安心して何でも話せる空気を作ってくれるか、きちんと聞いた上で戦略を組み立ててくれるかをよく見て判断しましょう。

5.窃盗事件を刑事事件専門の弁護士に依頼するメリット

窃盗事件で弁護士を探す場合、主に以下の3つのタイプの弁護士が存在します。それぞれの特徴とメリット・デメリットを解説します。

① 国選弁護人

国が費用を負担して選任される弁護士です。

  • メリット:費用が不要。
  • デメリット:弁護士を選べないので、刑事に精通していない場合もある。

国選弁護人は当番制で割り当てられるため、刑事事件に不慣れな弁護士が担当する場合もあります。「誰が来るかわからない」という不安が残るのが実情です。

② 私選弁護人

本人や家族などが費用を負担して依頼する弁護士です。逮捕直後(逮捕の不安がある場合、逮捕前)など早期の段階から選任できます。

  • メリット:自分で弁護士を選べる。刑事事件専門や経験豊富な弁護士に依頼可能。
  • デメリット:費用が発生する(数十万円~)。費用に関して明確に事前確認が必要。

私選弁護人は、刑事事件を多く扱う法律事務所に依頼でき、対応のスピードや柔軟さも特徴です。示談交渉や勾留阻止、情状証人の確保など積極的な対応が期待できます。

③ 当番弁護士(初回無料)

逮捕後、本人の要請により1回だけ無料で接見(面会)に来てくれる制度です。

  • メリット:無料で相談できる。制度として整備されており、迅速に接見してもらえる。
  • デメリット:原則1回のみ。弁護士を継続的に選ぶことはできない。

当番弁護士の制度は、家族が逮捕された直後に状況を確認する手段として非常に有用です。ただし、その後の継続的な弁護には私選または国選の選任が必要となります。

6.特に弁護士に相談した方がいいケース

窃盗事件でお困りの場合は、弁護士への相談・依頼が望ましいですが、以下のケースに当てはまる場合は、処分が重くなるリスクが高い、または早期の対応が非常に重要なため、迷わず弁護士に相談・依頼することをおすすめいたします。

  1. 被害者との示談が必要な場合:窃盗事件では、被害者が存在する限り、「謝罪と示談」が処分に大きく影響します。特に、被害者と直接連絡が取れない、被害額が大きい、被害者が感情的になっていて示談が難しいといった状況では、示談成立が不起訴や執行猶予に直結するため、弁護士の介入が不可欠です。
  2. 弁護士でなければ、被害者の連絡先は教えてもらえませんし、相手の感情に配慮しながら交渉するには専門的なスキルが必要です。
  3. 前科・前歴がある場合:前科・前歴がある人の再犯は、検察や裁判所から「常習性あり」とみなされ、処分が重くなる傾向にあります。過去に万引きで注意や書類送検されたことがあったり、同種前科がある場合は、反省・更生に向けた活動実績(カウンセリング・生活改善・家族の支援体制など)を整え、情状弁護を尽くすことが重要であり、それを弁護士がサポートします。
  4. 身柄拘束(逮捕・勾留)されている場合:身柄事件(逮捕・勾留されている事件)では、時間との勝負になります。拘束が長引けば社会生活への影響も大きく、釈放の可否によってその後の処分も大きく変わります。勾留阻止・準抗告・保釈請求など、迅速かつ法的な手続ができるのは弁護士だけです。国選弁護人がつくのを待っていては対応が遅れることもあります。
  5. 被疑者が未成年(少年)の場合:未成年者(少年)が窃盗事件に関与した場合、大人の事件とは大きく異なる対応が求められます。日本の少年事件では、「処罰」よりも「教育的指導・更生」が重視されるため、少年事件の仕組みや特性を理解したうえで適切に対応できる弁護士への依頼が極めて重要です。
  6.  否認している(やっていない)場合:「やっていないのに疑われている」「盗った覚えがない」と否認している場合は、弁護士に相談してください。例えば、「防犯カメラの映像だけで逮捕された」、「記憶が曖昧だが、取り調べで誘導されている」、「捜査官の取り調べが強引・自白を迫られている」場合は、弁護士の助言がなければ、誤った自白や不利な供述調書が作られてしまうことがあります。無罪や不起訴を勝ち取るには、専門的な法的戦略が必要です。
  7.  職場・学校・家族への影響を最小限にしたい場合:窃盗事件が発覚すると、職場や学校、家族関係への影響は避けられません。逮捕された場合、勾留期間が長引くほど、職場や学校に知られるリスクが高まります。早い段階で弁護士がついていれば、早期の釈放を目指せるため、職場・学校・家族への影響を最小限に抑えられます。

7.窃盗症「クレプトマニア」と刑事弁護

7-1. クレプトマニアとは

クレプトマニア(窃盗症、病的窃盗)という精神疾患をご存じでしょうか。

万引きなどの窃盗事件でご相談を受ける中には、経済的に困窮しているわけでも、物を必要としているわけでもないにもかかわらず、「やめたくてもやめられない」状態に陥り、再犯を繰り返してしまう方が少なくありません。盗むという行為自体に対して強い衝動を感じ、抑えきれずに繰り返してしまうケースは、「クレプトマニア」に該当する場合があります。ここではクレプトマニアについて少し触れていきます。

7-2. クレプトマニアの診断基準(DSM-5)

米国精神医学会の「精神疾患の診断と統計マニュアル第5版(DSM-5)」において、クレプトマニアの診断基準は以下のとおり定められています。

A:個人的な使用目的でも金銭的価値のためでもなく、物を盗みたいという衝動に繰り返し抵抗できなくなる

B:窃盗直前に緊張感が高まる

C:窃盗行為に及んだ際に快感・満足感・解放感を感じる

D:その窃盗行為は怒りや報復の表現でもなく、妄想や幻覚への反応でもない

E:その行為は、素行症・躁病・反社会性パーソナリティ障害など、他の精神障害ではうまく説明できない

 ただし、これらの基準に当てはまるか否かは、一般の方が自己判断できるものではなく、精神科医による専門的な問診と診断が必要です。

7-3. クレプトマニアに対する弁護活動

クレプトマニアを抱える方の弁護では、その症状や背景にある精神的要因を深く理解したうえで、刑事弁護と治療的アプローチを両立させることが重要です。

まず、本人の行為が単なる犯罪行為ではなく、病的な衝動に基づく制御不能な行動であるという点を明確にする必要があります。これを示すためには、精神科医の診断書や意見書が不可欠であり、場合によっては医師の証人尋問が必要となることもあります。

特に万引きなどの再犯事件では、刑事責任能力の有無や減退を主張し、適切な治療を受けるべきであることを訴えることが、弁護活動の大きな柱となります。

もっとも、こうした主張がすべての裁判所に容易に受け入れられるわけではありません。したがって、被害者との示談交渉や捜査段階の助言など、通常の刑事弁護活動を丁寧に行うことも不可欠です。

現状では、クレプトマニアの専門治療を行う医療機関は限られており、この疾患に対する知識や経験を持つ弁護士も多くはありません。

当事務所では、これまでクレプトマニアに悩む多くの依頼者からご相談を受けており、症状や苦悩を理解したうえで、戦略の立案をしています。

刑事罰の目的のひとつは「再犯の防止」ですが、クレプトマニアのような精神疾患が原因で窃盗行為が繰り返されている場合、刑事罰だけでは根本的な再発防止にはつながりません。クレプトマニアに必要なのは「刑事罰」ではなく「理解と治療」です。適切な治療の機会を確保することがなによりも重要なのです。刑事手続の中でその道を切り開くのが、私たち弁護人の役割だと考えています。

8.窃盗事件の解決事例

当事務所では、窃盗事件を含む財産犯罪につき多くの解決事例がございます。詳細は下記をご参照ください。

財産犯罪|解決事例|刑事弁護のプロフェッショナルJIN国際刑事法律事務所

9.窃盗事件は速やかに刑事事件専門の弁護士に相談しよう

窃盗事件に巻き込まれた場合、刑事事件に精通した弁護士へ相談することが重要です。適切な対応を怠れば前科がつくおそれもあります。特に被害者がいる場合、早期の謝罪や示談交渉が不起訴処分や減刑につながることもあります。刑事事件に詳しい弁護士であれば、逮捕後の手続や取調べへの対応、示談交渉、保釈の請求などを迅速かつ的確にサポートしてくれます。家族が突然逮捕されたようなケースでも、弁護士の力があれば今後の見通しを立てる手助けとなります。状況が悪化する前に、専門の弁護士へ相談しましょう。

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