背任罪で逮捕されたらどうなる?流れから予防法、対処法まで

会社や組織に属していると、日常の業務や判断が「背任行為」とみなされ、突然「背任罪」の容疑をかけられてしまうリスクは誰にでもあり得ます。背任罪は、任された業務や財産管理において、権限を逸脱した行為や不適切な処理が、「他人の利益を害した」と評価された場合に成立する可能性があるため、本人にとっては意図のない行動でも問題視されることが少なくありません。そのため「逮捕されるのではないか」「会社から告訴されるのではないか」といった不安を抱く方も多いのです。しかし、実際には背任罪に至るまでには捜査の流れがあり、また適切な予防策や初動対応を取ることで、不必要な逮捕や処罰を避けられる場合もあります。本コラムでは、背任罪の成立要件や捜査の進み方をわかりやすく整理し、事前に意識しておくべき予防方法、さらに容疑をかけられた際の具体的な対処法について解説します。不安を抱えている方が落ち着いて次の一歩を踏み出せるよう、ぜひ参考にしてください。

目次

1.背任罪とは?定義と成立要件、量刑など

1-1. 背任罪の定義

背任罪は、刑法第247条に規定されています。条文は次のとおりです。

「他人のためにその事務を処理する者が、自己または第三者の利益を図り、または本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、これによって財産上の損害を与えたときは、5年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する。」

つまり背任罪とは、他人のために仕事や財産の管理を任されている立場にある人が、その信頼に背く行為をして相手に財産上の損害を与えた場合に成立する犯罪です。企業の経営者や役員、従業員だけでなく、家庭内で財産を管理している場合などにも適用される可能性があります。

1-2. 背任罪の成立要件

背任罪が成立するには、以下の要件を満たす必要があります。

  1. (1)「他人のために事務を処理する者」であること:ここでいう「事務」とは、財産上の行為に限らず、契約、経営判断、財産管理など広く含まれます。例えば、会社役員が会社の資産を運用する立場にある場合や、従業員が会社の金銭管理を任されている場合が該当します。重要なのは、法律上または契約上の信任関係が存在することです。単なる好意的行為やボランティア的な手伝いではなく、明確な委任や職務上の責任に基づく場合に限定されます。
  2.  任務に背く行為:任務に背く行為とは、本来負っている義務や権限の範囲を逸脱する行為を指します。例えば、会社の資産を私的に流用したり、明らかに会社に不利益な取引を行うことなどがこれにあたります。ただし、経営判断のように結果的に損失が出たとしても、それが合理的な範囲内の判断であれば「任務違背」とは評価されません。裁判例でも「経営判断原則」により、経営者の判断に一定の裁量を認めています。
  3.  故意(自己または第三者の利益を図る意思、または本人に損害を加える意思):背任罪は過失では成立しません。本人が自分や第三者の利益を図るため、あるいは相手方に損害を与えるために行動したことが必要です。単なる失敗や誤判断では足りないのです。例えば、役員が自らの関連会社に有利な条件で取引をさせて会社に損害を与えた場合は、自己または第三者の利益を図った意思があると判断される可能性があります。
  4.  財産上の損害が発生すること:背任罪は「結果犯」と呼ばれる犯罪であり、実際に財産上の損害が発生しなければ成立しません。損害の有無は、単なる損得勘定だけでなく、経済的価値の減少や不利益な契約条件を負ったかどうかなどを総合的に判断します。

1-3.背任罪の量刑

背任罪の法定刑は「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」とされています。

刑罰の重さは、被害額や被害者への影響、被疑者・被告人の地位や責任の大きさによって判断されます。特に会社役員や経営者の場合、社会的責任が大きいため、厳しい評価を受けることがあります。

2. 背任罪と特別背任罪、横領罪の違いを具体例で理解する

背任罪は、しばしば他の財産犯と区別が必要になります。以下、具体例とともに解説します。

2-1. 特別背任罪

(1) 定義

特別背任罪(会社法960条)は、株式会社の取締役、監査役、会計監査人などの役職者が、任務に背いて会社に損害を与えた場合に成立します。一般の背任罪の特別な形態です。

(2) 背任罪との違い

背任罪は「任務を負う立場なら誰でも」対象になりますが、特別背任罪は「会社法上の役職者」に限定される点が特徴です。

(3) 具体例

  • 取締役が、自分が経営する別会社に資金を不正に融資し、本来の会社に多額の損害を与えた場合
  • 経営者が、会社の資産を私的に流用して高額な物品を購入し、会社に損害を及ぼした場合

(4) 罰則

通常の背任罪より重く、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金 に処されます。会社役員の社会的責任が重視されています。

2-2. 横領罪

(1) 定義

横領罪(刑法252条)は、自己が占有する他人の物を不法に自分のものにする場合に成立します。特に業務に関連して行った場合は業務上横領罪(253条)となり、刑罰はより重くなります。

(2) 成立要件

  • 「他人の物」であること
  • 行為者がその物を占有していること(預かっている、管理しているなど)
  • 不法領得の意思を持ち、横領行為をしたこと

(3) 具体例

  • 経理担当者が、会社の預金口座から自分の口座に資金を振り替え、私的に使用した場合(業務上横領罪)
  • 知人から預かった高級時計を返さず、売却してしまった場合(単純横領罪)

(4) 背任罪との違い

横領罪は「物の占有」を不法に侵害するのに対し、背任罪は「不利益な契約や任務違背行為」で損害を与える点で異なります。

2-3. 詐欺罪

(1) 定義

詐欺罪(刑法246条)は、人を欺いて錯誤に陥らせ、その錯誤に基づいて財産を交付させ、利益を得た場合に成立します。

(2) 成立要件

  • 欺罔行為(人を騙す行為)があること
  • 相手が錯誤に陥ること
  • 相手が錯誤に基づき財産を処分すること
  • 行為者が利益を得ること

(3) 具体例

  • 架空の投資話を持ちかけて、存在しないファンドに出資させ、金銭をだまし取るケース
  • インターネット通販サイトで、商品を発送する意思がないのに販売を装って代金だけ受け取るケース
  • 実際には治療効果がない薬を「効能がある」と偽って高額販売するケース

(4) 背任罪との違い

詐欺罪は「外部の人を騙して財産を交付させる」点に特徴があります。一方、背任罪は「信頼関係に基づく義務違反」で損害を与える点に特徴があります。

3.背任罪で逮捕された場合の刑事手続きの流れ

背任罪は、前述のとおり、他人のために事務を処理する立場にある者が、自分や第三者の利益を図ったり、義務に反する行為をして相手に損害を与えたときに成立する犯罪です。会社役員や従業員、委託を受けた管理者などが対象となり、経済活動や組織運営に密接に関わるため、発覚すると社会的信用にも大きな影響を与えます。

逮捕は、警察や検察が「証拠隠滅や逃亡の恐れがある」と判断したときに行われます。背任罪の事案では、会社の内部資料の改ざんや関係者への働きかけが想定されるため、比較的逮捕されやすい傾向があります。

3-1.逮捕直後(警察署での留置)

逮捕されると、まず警察署の留置場に収容されます。この時点で48時間以内に検察官へ事件が送致の判断をされなければならず、時間的な制約が厳しいのが特徴です。取り調べでは、容疑の説明を受け、事実関係や動機について質問されます。供述内容は調書にまとめられ、後の捜査・裁判で重要な証拠となるため、不利な発言を安易にしないことが大切です。

この段階で弁護士に接見(面会)を依頼することができます。(もちろん、逮捕はされていないけれど、逮捕される可能性がある場合も、事前に弁護士を依頼することは可能です。) 弁護士は取り調べの注意点や権利行使の方法を助言し、被疑者が不当に不利な立場に立たされないようサポートします。

3-2.検察官送致と勾留請求

逮捕から48時間以内に、検察官は被疑者を取り調べ、勾留が必要かを判断します。勾留請求が裁判官に認められると、最長10日間(延長でさらに10日、計20日間)身体を拘束されます。背任罪のように帳簿・契約書・電子データなど多くの資料を精査する必要がある事件では、勾留が長期化しやすいのが実情です。

弁護士はこの段階で勾留阻止や勾留延長を避けるための意見書を提出し、裁判官に「逃亡や証拠隠滅の恐れがない」と訴えます。

3-3.勾留中の生活と取調べ

勾留中は警察署の留置場で生活し、連日取調べが行われます。背任罪の場合、取引の経緯、契約の内容、意思決定の過程など複雑な事実関係を問われるため、長時間の取調べになることが少なくありません。

また、会社関係者や取引先への事情聴取も並行して行われ、被疑者の供述内容と突き合わせて証拠を固めていきます。この間、弁護士との接見は制限なく認められるため、防御戦略を練るうえで重要な期間となります。

3-4.起訴・不起訴の判断

勾留期限内に、検察官は起訴するか、不起訴にするかを判断します。

不起訴処分:証拠が不十分、違法性が軽微、示談成立などが理由で不起訴になる場合があります。背任罪では被害者である会社や取引先と示談が成立し、被害届の取り下げや宥恕(許す意思表示)があれば不起訴の可能性が高まります。

起訴処分:起訴されると刑事裁判に進みます。背任罪の法定刑は「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」であり、特に被害額が大きい場合は懲役刑が選択されることも少なくありません。

3-5.起訴後の手続き(公判前整理手続)

起訴されると、正式裁判に向けた準備が始まります。近年では「公判前整理手続」と呼ばれる仕組みが活用され、証拠の開示や争点の整理が行われます。背任罪では、取引の適法性、意思決定の正当性、損害額の算定などが争点となることが多く、会計資料や契約書、社内規程の解釈が中心となります。弁護士は、証拠の不十分さを突いたり、経営判断の裁量の範囲内であったことを主張したりして、無罪や量刑軽減を目指します。

3-6.刑事裁判

裁判は公開の法廷で行われます。検察官が証拠を提示し、弁護人が反対尋問や反論を展開します。背任罪の裁判では、会社役員や取引先担当者が証人として出廷することも多く、複雑な経済活動の解明が求められます。

判決は「有罪」「無罪」「一部無罪」などの形で示され、有罪の場合には懲役刑または罰金刑が科されます。執行猶予が付くか否かは、被害弁償や示談の有無、反省の程度、前科の有無などが大きく影響します。

3-7.控訴・上告

判決に不服があれば、控訴(高等裁判所)、上告(最高裁判所)が可能です。事実認定や法律解釈に誤りがあると考えられる場合、弁護士と協議し控訴するかどうかを判断します。

4.背任罪で逮捕されないためには?予防策と対処について

背任罪の怖いところは、「明確な横領」や「故意のだまし」がなくても、経営判断や業務処理が不適切と評価されることで容疑がかかり得る点です。つまり、本人が「良かれと思ってした判断」や「慣例的に行ってきた業務」でも、結果として損害が発生すれば背任とされる危険があるのです。この性質を理解しておくことが、予防の出発点となります。

4-1. 逮捕を防ぐための予防策

背任罪で逮捕されないための予防策としては、以下の5点が挙げられます。

  1. 意思決定プロセスの透明化:背任罪は「任務違反」が争点になるため、意思決定が不透明だとリスクが高まります。会議の議事録を残す、契約締結時の承認ルートを明確にする、重要な判断は複数人で合議するなどを徹底すれば、後から「独断で行った」「権限を逸脱した」と疑われるリスクを減らせます。
  2. 内部規程・コンプライアンスの遵守:社内規程や就業規則を軽視した行動は、背任とみなされる温床になります。特に「稟議の省略」「経費の流用」「利益相反取引」などは要注意です。内部規程を理解し、遵守する姿勢を示すことが予防につながります。
  3. 利益相反取引の回避:自分や親族が関与する会社と取引する場合などは、利益相反の疑いが生じやすく、背任の典型とされます。どうしても必要な場合は、社内で事前に承認を得る、外部監査人に相談するなど、透明性を確保することが不可欠です。
  4. 適切な記録と証拠の保存:後日「背任ではない」と説明するためには、証拠が必要です。契約書やメールを保管する、経理データを改ざんせず保存する、会計監査や税務調査に耐えられる資料管理を徹底するなどの対応で、意思決定の正当性を裏付ける資料を残しておくことが、最大の防御策になります。
  5. 社内通報制度や監査の活用:自分では問題ないと思っていても、第三者から見れば背任の疑いがある行動が存在することもあります。社内の監査部署やコンプライアンス窓口に事前に相談し、チェックを受けることでリスクを低減できます。

4-2. 背任罪の疑いをかけられた場合の初期対応

もし、背任罪の疑いをかけられてしまった場合は、初期対応が重要となります。具体的なポイントは以下のとおりです。

  1. 動揺せず冷静に対応する:突然「背任ではないか」と告げられると、多くの人は焦って言い訳を並べたり、相手を非難したりしてしまいます。しかし、感情的な対応はかえって不利に働きます。まずは状況を整理し、「どの行為が問題視されているのか」を冷静に確認することが重要です。
  2. 関係資料の確保:自分の行為が正当であったことを示す証拠を集める必要があります。契約書、稟議書、メール履歴、会議資料などをできるだけ早い段階で確保しましょう。もし会社が資料の持ち出しを禁止している場合は、弁護士を通じて適法に開示を求める方法もあります。
  3. 被害者との関係整理:背任罪は「他人に損害を与えること」が成立要件です。したがって、被害者とされる会社や取引先が「損害は存在しない」「許す」という立場を取れば、刑事責任が問われない可能性があります。示談交渉によって損害弁償を行い、相手の理解を得ることは非常に効果的です。
  4. 弁護士への早期相談:もっとも重要なのは、刑事事件に精通した弁護士へ早期に相談することです。取調べでどのように対応すべきか、供述調書にサインすべきか、勾留や逮捕を防ぐ方法はあるかなど、こうした判断は専門知識なしには困難です。弁護士が介入すれば、捜査機関とのやり取りを適切に管理し、逮捕や起訴を回避する可能性を高められます。

4-3.背任罪で逮捕されてしまった場合の対処法

背任罪で逮捕されてしまった場合は、以下の対応がポイントとなります。

  1. 黙秘権の行使:逮捕後の取調べでは、供述内容がそのまま証拠となり、不利に働くことがあります。不安だからといって何でも話してしまうと、「自白」として扱われてしまいかねません。黙秘権を適切に行使し、弁護士と相談したうえで供述内容を決めることが大切です。
  2. 勾留阻止の活動:弁護士は裁判官に対して「逃亡や証拠隠滅の恐れがない」と意見書を提出し、勾留を避けるための活動を行います。早期に釈放されれば社会生活への影響も小さく、冷静な対応が可能となります。
  3. 示談交渉による解決:背任罪の多くは被害者が会社や取引先です。示談によって損害を弁償し、相手が「処罰を望まない」姿勢を示せば、不起訴や執行猶予につながるケースもあります。弁護士を介して誠実に対応することが解決への近道です。

背任罪は、明確な犯罪意思がなくても、任務に反すると評価されれば成立する可能性があるため、誰にとっても身近なリスクといえます。逮捕を防ぐためには、日頃から意思決定の透明化や証拠の保存を徹底し、利益相反や規程違反を避けることが不可欠です。もし疑いをかけられてしまった場合は、冷静な初期対応と弁護士への早期相談が最も重要です。適切な予防と対処を心がけることで、背任罪による不当な逮捕や深刻な結果を回避できる可能性は大きく広がります。

5.背任罪でお悩みの場合は刑事事件専門の弁護士に相談しよう

背任罪は、会社の役員や従業員などが、業務上の義務に反して自己や第三者の利益を優先し、他人に損害を与えた場合に成立する犯罪です。日常の業務判断や経営判断でも、結果次第では背任と評価されることがあります。そのため、背任の疑いをかけられた場合や逮捕の可能性がある場合は、早期に刑事事件専門の弁護士に相談することが非常に重要です。

刑事事件専門の弁護士は、背任罪の法的構成や過去の裁判例、捜査手続きに精通しており、逮捕回避や不起訴処分を目指す最善の戦略を立てることができます。弁護士が初期段階から関与することで、取調べ対応、供述調書の扱い、勾留阻止、被害者との示談交渉などを適切に進めることが可能になります。

特に背任罪では、被害者である会社や取引先との示談が結果に大きく影響します。弁護士は損害の弁償や示談交渉を代理で行い、検察官の不起訴判断や裁判での量刑軽減に有利な状況を作ります。また、契約書や会議資料、会計データなどの証拠を整理・評価し、業務判断が正当であったことを裏付ける支援も行います。

背任罪で悩んでいる場合、自己判断で動くと不利な証拠を作ったり、証拠隠滅の疑いをかけられたりするリスクがあります。早期の弁護士相談は、逮捕回避や刑事責任の軽減だけでなく、社会的信用を守るうえでも欠かせません。背任罪でお悩みの方は、一人で抱え込まず、刑事事件専門の弁護士に相談してみましょう。

JIN国際刑事法律事務所

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